大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)1841号 判決
控訴人 西中輝雄
右訴訟代理人弁護士 桜井健雄
同 正木孝明
同 井上英昭
被控訴人 大阪小松フオークリフト株式会社
右代表者代表取締役 正木光
右訴訟代理人弁護士 原田甫
同 山本哲男
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、当事者の求めた裁判
1. 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2. 被控訴人
主文と同旨
二、当事者の主張及び証拠関係
次に付加するほかは、原判決事実摘示中の控訴人関係部分のとおりであるから、これを引用する。
1. 控訴人の当番における主張
控訴人は、本件物件を即時取得するについて、何らの過失もなかった。その理由は、次のとおりである。
(一) 控訴人は、零細なスクラップ業者であって、以前に同業者から中古のフオークリフトを代金二〇万円で購入したことなどがあったものの、その際に本件のような紛争が生じたことはなかった。控訴人は、建設機械の取引について精通せず、かつ、本件物件が三か月間もガソリンスタンドで雨ざらしになっていて新品に近いものでなかったことや、右物件の代金支払方法が手形でなされていることなどの事情を知らなかったので、同物件についての譲渡証明書の有無及び売主である松本興産から右物件取得の経緯について調査すべき義務はなかったものである。
(二) 本件物件の売主である松本興産は、控訴人の幼いころからの知人が経営する居住地域では最大手に属する建設会社であって、控訴人にとっては大手企業よりも信用のおける存在であった。そして、松本興産が本件物件を自己の所有物件として売却することは、同会社の業務の性質からして当然のことであった。
2. 控訴人の右主張に対する被控訴人の答弁
(一) 控訴人の右主張事実をいずれも否認する。
(二) 控訴人が本件物件を即時取得するについて過失があったことは、次の事実からも明白である。
(1) 本件物件は、昭和五八年二月に製造されたもので、控訴人購入当時は製造後約八か月しか経っていない新品に近い新古車と呼ばれる程度の状態であった。本件物件のように新品に近い機械が中古品として売買されるのは稀な事例であるとともに、本件物件の車体には使用者を表示する記載がなかったから不審物件ともいうべきものであった。
(2) 控訴人は、購入当時に一九〇万円の価値のあった本件物件を八七万円という半額以下の代金額で取得し、その代金額の決定方法も通常の取引では考えられないような安易なものであった。
控訴人は、過去に松本興産から機械類を購入したことがなく本件物件の取引が初めてであり、しかも、同会社が右物件を手放すと聞いて、同会社が経営不振となっているのではないかとの疑念を抱きながらも、同会社に対し本件機械の取得の時期・経緯、代金完済の有無など基本的な調査もせずに右物件を取得したものである。
3. 当審における証拠関係〈省略〉
理由
一、当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本訴請求を正当として認容すべきであると判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決理由説示中の控訴人関係部分と同じであるから、これを引用する。当審における証拠調べの結果を検討しても、右認定を覆すに足るものはない。
(控訴人の当審における主張に対する判断)
控訴人は、(1)控訴人が零細なスクラップ業者であって以前に同業者から中古のフオークリフトを購入したけれども紛争を生じたことがなかった、(2)控訴人が建設機械の取引に精通せず、本件物件の代金支払方法が手形でなされていることなどの事情を知らなかった、(3)本件物件が三か月間もガソリンスタンドで雨ざらしになっていた、(4)本件物件の売主である松本興産は控訴人の幼いころからの知人が経営する居住地域では最大手に属する建設会社であって、控訴人にとっては信用のおける存在であった、ことなどを理由に、控訴人には本件物件についての譲渡証明書の有無及び売主である松本興産から同物件取得の経緯について調査すべき義務はなかったから、控訴人には本件物件を即時取得するについて過失がなかった旨主張するので、判断する。
原判決理由五で説示するとおり、(1)本件物件のような高価な建設機械の売買においては、約九五パーセントが割賦販売されていて、割賦期間中は売主に所有権が留保されており、売主たるメーカーないしはデイーラーが代金完済時に所有権留保の解除を証するために譲渡証明書を購入者に交付する制度が昭和四六年から存在し、譲渡証明書の発行されていない機械の購入を希望するユーザーはデイーラーの本社、支店、営業所等に電話をすれば機械の所有者を確認することができるようになっていた、(2)控訴人は、スクラップ業を営み、従来からフオークリフトを事業用機械として購入使用していたが、建設機械の取引をしたことのない建設業者の松本興産から同会社の車体表示もない本件物件を取得するに当たって、同会社に対し同物件の譲渡証明書や契約書の所持の有無、その取得先など所有関係の確認、デイーラー等への物件照会などをしないまま、時価の二分の一程度の代金額八七万円でこれを購入した、のであって、これらの事実を総合すると、控訴人が本件物件を即時取得するについては過失があったものというべく、仮に控訴人主張に係る右事実があったとしても、これをもってしては未だ控訴人において本件物件が松本興産の所有であると信じたことについての過失を否定するに足らないものというべきである。
二、よって、右と同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 高田政彦 辻忠雄)